生きるからにはそれなりに

mochilonという人のブログ

新・平家物語(七)とクリエイティブ脚本術

新・平家物語(七)、吉川英治著。読了。あと9冊あるぞ。以仁王の挙兵〜富士川の戦い。やっと治承・寿永の乱、いわるゆる源平合戦が始まった。犬三位源頼政の艱難辛苦、生涯全てを尽くした人生最後の大博打がどう転がってゆくか見定めぬまま死んでゆく様。世間から忘れ去られていた人生を頼政に巻き込まれ、ほんの僅かな舞台で幕を閉じる以仁王。そして何より誰一人心から頼れる者のいない平清盛の心情と栄華の果てに腐敗した平家。吉川英治の筆がいよいよ冴え渡り、頼朝や義経以外の人々はすべてどこか物悲しい。新平家物語、その前半のヒーローであった清盛がアンチヒーローとなり、退行や疎外を経て死に向かってゆく様と、頼朝がヒーローとしてどのような通過儀礼を受け統合、再生してゆく様がが対比として克明に描かれている。

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クリエイティブ脚本術に描かれている図そのものであり、それをこの上ない肉付けで描いている。

自分の声で、夢がさめる。

和田ヶ崎の松風と浪音が、夜は、雪ノ御所の深くにまで、とどろに、聞こえていた。

むかし、かれが神輿に矢を射たときは、民衆の石の雨が、かれに加勢して、山法師と闘った。

けれど、清盛が今日、つがえている矢には、一門のほか、味方がない。民衆の石は、かえって、清盛へ降りそそがれている。

ーーふと、魘されるたび、かれはこのごろよく寝汗をかく。

そして、帳台のあたりのほのかな灯に、唐朝の王者もしのぐ室内の豪奢をにぶい眼で見まわすのだった。みずから築いた半生の栄花を、自己の墳墓を見るようにながめ、ついには、やりきれないように眉をひそめて、眠ることにまた努める。

こうしたかれの夜ごとであった。

物語中盤における屈指の名文であろう。
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