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生きるからにはそれなりに

mochilonという人のブログ

血だるま剣法、風魔忍法、焼肉街道

上原善広著『 日本の路地を旅する』を四六版で読む。

これほど面白く読ませ爪痕を残しながら、絶賛したくない本というものには初めて出会ったかもしれない。

路地、というのは同和地区(被差別部落)のことを指している。中上健次が名付けたそうだ。

正直東京の西側に住んでいると部落差別というものとは一切縁がない。かつてはそういうものがあった、程度の認識でしかない。 

大阪へライブをしに行った際、人権意識向上というようなポスターが町中で貼られているのを見て初めて「今でもあるのか」と思ったほどだ。

血だるま剣法・復讐つんではくずし
平田弘史
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大阪府松原市南新町(更池)出身の筆者、上原善広地震被差別部落であることをカミングアウトし、部落問題を中心に書いているフリーライターだ。

 日本各地の路地でのルポルタージュを書き記してゆく。だがそれはノンフィクションと言うにはエッセイ的な私見や感情の起伏が混ざっており、筆者の心理や精神状態になりきって読まなければ汲み取れない部分、逆に筆者の感傷的叙述を冷めた態度で切り離して考えるべき部分が混在している。

読み物としてはその振れ幅がうねりを生み出して面白くなるのだが、情報としてはあまりに精度がブレてくる。よってあまり信用もできない。

罪を犯し、借金から逃亡し沖縄の離島に住む兄の姿と沖縄の部落(エイサーはかつて内地から連れてこられたそのような人たちの芸事であった)を重ね合わされても困るのである。

ひとまずそういった点から切り離した情報として面白かった話をいくつか挙げてみよう。

近江牛ブランドの話。江戸時代に牛の食肉産業が正式に存在したのは彦根藩だけであった。養生薬として牛肉の味噌漬が存在し、大名と不可触民だけに牛肉を食べる習慣が存在したのだが、次第に珍味として有難がられるようになり、江戸中期になると京都の三条河原、そして江戸で牛鍋屋が広まってゆく。

現在東京の老舗料亭が近江牛を出すのはその名残なのだそうだ。

戦後の同和政策などの葛藤とは別に食肉文化や皮革産業(かつては軍需産業であった)の視点の話を拾っていくとこのように面白い話が続く。

中国地方では皮なめしではなく芸人としての不可触民が多く存在していたらしく、日光猿軍団の猿回しがかつて周防にあった大道芸を復活させたものであること。

尼子経久が塩治氏から月山富田城を奪還する際、正月の芸事を請け負う鉢屋衆によって奇襲させた話。

鉢屋衆は元を辿っていくと平将門の乱で共に挙兵した飯母呂一族であり、敗北し落武者となった後、山陰まで逃げてきた者たちだという。さらにその中で小田原へ逃げ込んだ者たちが後に風魔一族になったということだそうだ。

どこまで信用に足る情報かはいささか疑問ではあるが、日本の中世〜近代の歴史の裏側の糸を手繰るきっかけとしては純粋に楽しめる。

近年の部落出身者による殺人事件だとかBSE問題の頃に起きた食肉偽装事件のような現代の話になるとたちまち触れづらくなる話題ばかりなのだが、一つ言ってておくとこの本で知った岐阜、薩摩カイコウズ街道(焼肉街道)というものの存在は有りがたかった。関ヶ原を観光した後立ち寄ったやきにく藤太は尋常じゃなく安くて美味かった。最高。

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そんなわけで複雑な気持ちを抱かされながら、忍者も焼肉も知ることができる妙な本ということでここは一つ。

日本の路地を旅する
日本の路地を旅する
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