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生きるからにはそれなりに

mochilonという人のブログ

『島津義久 九州全土を席巻した智将』著:桐野作人

ヒラコードリフターズを読み始めた頃からずっと気になってはいたのだが、いかんせんページ数が分厚くなかなか手を出せずにいた本である。

なんせ全体で521ページある。無論上中下巻に分かれている本などはもっと長いのだが、カバンに入れて持ち歩くし話に区切りというものがない。そういえば中学生の頃1000ページある封神演義を読んだが一冊で長いものとしてはそれが最長かもしれない。

さて島津義久である。戦国時代に九州統一に王手をかけ、豊臣秀吉に阻まれてしまった男である。

戦国時代の島津家というと関が原の戦いで有名な「島津の退き口」や文禄・慶長の役で有名な次弟、島津義弘の知名度が圧倒的に高く、当主であった島津義久はその功績の割に影が薄い。この作品はその島津義久をあえて主人公に据えて今までになかった角度や、戦国時代の島津家全体の流れを描き出している。

尋常でない統率力や人間離れした士気の高さで一気に九州を平らげてきたかのような印象があったが、どうも本当に人間離れした芸当をやっているのは伊東氏3000人を300人で破った木崎原の戦いだけであり、その後の耳川の戦い大友宗麟が、沖田畷の戦い龍造寺隆信がそれぞれボケ失策をした瞬間を見逃さず確実に拾っているという印象を受けた。抜け目ない戦いをしているが決して異常に強かったというわけではないのだな。

一方秀吉による九州征伐の頃になるとこれは戦術や戦略ではなく外交の域になってくるため、今まで勝ち戦続きでそのスケールを測りそびれた家中が割れてゆく。ここで一人慎重で冷静でありながら家臣や兄弟たちの突き上げをコントロールできない義久のジレンマがよく描かれている。西郷隆盛の最後や旧日本陸軍の失敗と非常に姿が重なって見るのだが気のせいだろうか。

文禄・慶長の役の頃も改易による家中の不協和や世継ぎの戦死病死に悩む姿が描かれており、溜まり溜まったそれらが関ヶ原前年の庄内の乱(家老のお家騒動)などのお家騒動につながる。というかよくまぁこんだけ家中が崩壊寸前の状態で関ヶ原乗り越えてその後の家康の圧力を乗り越えてお家が保たれたな、それだけですげぇなといった具合の荒れっぷりである。

さわやかに晩年、綺麗に話が終わっていくかと思いきや後継者であるDQNな甥忠恒の暴走が加速してゆき、あまりにもままならぬ最期を迎える。このあたりについて忠恒には忠恒の考えがあっての暗躍や策略だったのだろうが、非常に悪知恵の効いた悪どい立ち回りのためよくまぁ実の伯父に対してここまで家中で汚いことばかり、島津四兄弟の結束と友情とは何だったのかという状態で義久の生が終わる。

小説の体ではあるのだが、いくつもの分家、伯父、従兄弟、女婿の後継者、三代にわたる譜代家老たち、戦で功名を立てた侍、またそれらが幼名通名改名官位法名含めておそらくかなり正確に入り乱れるため限りなく歴史資料でもあり、読み進めていくにあたってある程度の事前知識やメモが必要になる。というか混乱して途中でメモを付け始めた。非常に情報量が多く、濃い本である。

あとは会話が鹿児島弁で書かれているのがとても良かったですね。臆病者(ヤッセンボ)というようなルビがじゃんじゃん振られている。「いっき」「びんた」「おい」等その後標準語になっていった鹿児島弁があるという発見も楽しい。これはまぁ明治の頃に定着したからなのだろうが。

島津義久 九州全土を席巻した智将 (PHP文庫)
桐野 作人
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