生きるからにはそれなりに

mochilonという人のブログ

経済のことなんてなんもわからないからね

四月二十六日、曇り。

円安157円台。

8時起床、朝カスタマーサポート。

帰宅してまた12時まで気絶。

冷凍チャーハンを主への宥めの香りとする。

ヘルプの人間をもてなす。

ピアノを弾きそびれる。

牛肉と様々な冷凍食品を仕入れる。

カレーの仕込み。

夕方カスタマーサポート。

カレーライスを主への宥めの香りとする。

22時半開放。

 

『トマト缶の黒い真実』読了。

 新疆ウイグルの加工用トマト畑から話は始まる。産業と雇用のない四川省の人々や各地の少数民族が安く買い叩かれて一日に何トンもトマトを収穫する。それらは工場へ運ばれて3倍濃縮トマトとしてドラム缶に詰め込まれる。この事業を仕切っているのは「軍」「政」「党」「企業」が一体化した巨大屯田兵集団「新疆生産建設兵団」。恐らく新疆ウイグル自治区のジェノサイドや強制不妊手術も彼らの手によるものだろうが、そのエピソードはこの本では触れられない。

 3倍濃縮されたトマトのドラム缶はイタリアへ運ばれてゆき、「輸出用であれば関税がかからない」というEUの法の抜け穴を突いて水と塩によって「イタリア産」の2倍濃縮トマトに変身し、世界各国へ運ばれてゆく。当然地元イタリアのトマト生産に関わる人々の雇用はこのグローバル経済によって破壊されてゆき、残された利ざやは「アグロマフィア」と呼ばれるイタリアの食品マフィア達によって操られている。

 一方アメリカではハインツ社の巨大な食品メーカーとしての成長の歴史が語られる。創業者ヘンリー・J・ハインツはピューリタンとしての信仰から生み出した徹底的なパターナリズムによって管理された製造ラインと従業員のモチベーションを維持、フォード社より10年先駆けてフォーディズムを実現し、キャンベル社がストライキする従業員を射殺する中でもストライキゼロを達成し、時の大統領フーヴァー達から絶賛の声を受ける。そしてこれらは80年代の自由貿易の加速とリバタリアニズムへとつながってゆく。彼らもまたより安い原材料によるコスト削減を求めて新疆ウイグルから来たトマトを使うのは当然のことである。

 中国の急激なトマト産業の発展により濃縮トマトのドラム缶は需要と供給のバランスが崩れ不良在庫が生まれる。それらは賞味期限を過ぎ、蛆が湧き、真っ黒に酸化してなお買い取り手が現れる。トマト消費量世界一のリビアを筆頭としたアフリカ諸国である。デンプンや食物繊維、着色料を混ぜて赤い色に染め直した賞味期限切れの濃縮トマトはアフリカで再度トマト缶として流通してゆく。

 伝統的にトマト料理を食するガーナの人々もまたグローバル経済による産業破壊の犠牲となり、彼らはEUへ出稼ぎをするようになった。イタリアへたどり着いたアフリカ系移民を待っていたのは、アグロマフィアが仕切っているゲットーでの労働であった。NPOすら支援に来ない困窮した暮らしの中で彼らは疲弊し、心身を病み、命を失ってゆく。

 

 この本を読んでから「イタリア産」と書いてあるトマト缶を手に取ることを躊躇するようになってしまった。特に230円で手に入る濃縮トマトペーストであるパッサータは一体何でできているのかを考えるのが恐ろしい。トマト缶を使った料理が食べたいにも関わらず、恐らくその全てがどこかで偽装された不透明な食品である。食ってすぐ死ぬことはないだろう、では児童労働や反社会的勢力が関わっていたとしたら?この本はトマトペーストの産業のみに視点を絞っているがそれだけでグローバル経済の恐ろしさがこれでもかと描かれている。何を買い、何を食うか、それがどこから来たのか思いを馳せ、考え、時には手に取らない決断も迫られる。